Owners Voice 琥珀色の迷宮

敵対水域…琥珀色の迷宮No.14

静岡で営業を開始して20年。

その間他県よりの同業点が根室から沖縄まで217軒の人が名刺を置いてゆき、楽しく酒談議を繰り返したものだ。

将来東京出店の折にはよろしくとも言った。

そして、銀座店がオープンした途端に賀状もこなくなり、店に来る事もなくなった。ピタッと止まったのである。

あれ程仲の良かった店のオーナーからは誹謗、中傷の数々。そこへ行っているお客様から聞いた話である。どうやら横浜を境に敵対水域に入ったようである。

私にはその同業者の人々の気持ちも判る。私に代表されるようにショットバーを経営されている方々の了見とはその程度のものである。

しかし仲良くやっていれば情報の交換、酒の交換、その他色々のメリットはあると思う。

励まし合いながらこの大不況を乗り切らなければならないと思う。

お互いお客の紹介もしたり、されたり陰湿なケンカは決して得にならないと思う。

御老体にムチ打って、ひたすらカクテルに心血を注いで営業している方にとっては馬鹿げた事だと思うだろう。

常に周囲の事など気にしないでマイペースでシェーカーを振り続けている人達も数多くいる。私達のようにまだ未熟な若輩者の心を見透かされているようで恥ずかしい・・・・・・。

都内のあるショットバーへ入った。中位の酒を3杯飲んでチェックを頼んだ。

出て来た金額が84,000円だった。(頭の中では15,000円以下だったが)「判った。領収証をブルーラベルで切って下さい。」 と云うと、その若者びっくりした顔で奥へ行き、マスターらしき人と話している。又、その男とマスターが出てきて「お客さん計算間違いで13,000円でした。」「いや、84,000円でもいいですよ。貴方の店がこの金額だと云うなら・・・・・・。その金額で領収証さえ切って下さるなら・・・・・・。」 しかし領収証は切らない、金は受け取らない。

数十秒の沈黙の後「13,000円で切って下さい。」と云うとやっと書いてくれた。「計算間違いも程々にしないと変な噂が立と困りますよ。程々に・・・・・・。」 その日は直行で帰った。なんとも複雑な気持ちだったがその1週間後、1通の手紙が来た。

差出人の名は知らない人だったが中を開けてカウンターパンチを喰らったようだった。

1週間前の店のマスターよりていねいな謝罪文である。

読み終った時に“負けた„と思った。法的ではなく、心の中の勝負に私は完全に負けた。

文面を要約すると先日の値段のつけ方は当り前のようにやっている事だったらしい。

「ぼったくりバーと云われでも仕方ないと思っております。この不況下で仕方なくやっておりますがいつの日か当たり前の様になっていました。

今後はもう一度初心に戻って頑張りますのでよろしくお願いします。」との内容だった。

人は頂点に立つと偉そうにする会社の社長、相手を負かせて喜ぶ人、実力もないのにふんぞり返って酒を飲む人、こういった人達が衰退して消えて行った光景は数多く見てきた。

しかし、人間は謝る時が最高にその人格を表わす時である。謝る事は大方の人が嫌がる。

しかし、私は謝る事が好きな人種であり、店の従業員にもきつく教えている。

このマスターは立派なものである。サラリーマン諸君、謝るのが恥と思うならば絶対出世などできない。謝る時が最高の出世のチャンスである。

そして謝った客に大切にしてもらえば売上も人間も伸びてくる。

自分の持てる謝り方を身につけて下さい。

ありがとうマスター 又、会いましょう・・・・・・

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