Owners Voice 琥珀色の迷宮

金持ちとはなんだ 貧乏人とはなんだ…琥珀色の迷宮No.13

ブルーラベル東京店を出して早くも十八ヵ月がたった。

最悪の経済状態の中でのスタートだった。売上が全然伸びない。

まだこの頃は花輪があちこちに並び、景気は良さそうに見えた。

しかし相も変らずお客は来ない。私は従業員に謝った。

“申し訳ない。全ては俺の責任だ。お前達はお客様と接して最高の酒とサービスでお客様の笑顔を見る事が最大の生きがいだと知っている。

しばらく待て、遊びながら掃除をしながら待て、その内にお客様も来る。

しかし、覚悟しておけよ。最初は酒の事も全く知らない紳士づらした連中ばかりだ。

適当にあしらっておけ。„

この意味が全員には理解出来ない事は判っている。

銀座のクラブで遊んでいる客だからお金持ちだと全ての者が思うだろう。

確かにお金が有るから遊べるのは判る。しかし問題はその後である。

ホステスさんと一緒に来てからその人の素性はよく判る。

徹底してケチる。自分の自慢話と先の見えない経済事情をビール1本で延々としゃべる。

部下と一緒に来ても格好良く“何でも好きな物を飲め„部下が注文すると“それは駄目だ„それなら最初から格好つけて言うな!

この場合一番人間の格を落しているのは誰でもない社長さんその人である。

結局ビール一杯で帰ってしまった。後で従業員はア然としている。

そんな客が大半である。男を下げてまで飲む酒がそれ程うまいか?その程度の力量なら無理して夜の街に出ない事だ。

品も格も落し従業員だけがひんしゅくを箒で拾い集めている。己を知り背伸びしない事です。

その真逆も大勢いらっしゃる。クラブで遊んで来ても最後まで男を通す。

好きな物を注文してあげて、チェックの時も平然と支払い、丁寧に私共に挨拶をして帰る。そして又来る。

以前と全く変らず・・・・・・立派の一言

只、もう一つの金持君がいる。ホステスさんと同伴して食事、クラブで遊んで最後に当店に来る。

酒を充分楽しみ、気持ち良く帰るのだが4階のエレベーターから1階までにとっさに考え、2ヵ月間は同伴出来ないな・・・・・・“来週より忙しくなるので当分来れない。又ヒマが出来たら電話するよ„完全なる予防線である。

正に神業級の思いつき見事!しかし金持ちには少し遠いな〜

お金持ちの皆さんには宿命があります。

飲み遊びに撤した夜は決してケチらない事。(ボトルキープした酒を3ヵ月もかけて何十人の部下を連れて来てもまだ残している。飲ましてやれよ。最後に部下が謝って帰る。これが切っ掛けでボトルキープはやめました。)

同伴している部下、ホステスの皆さんをけなさない事。他のお客様に聞こえるような下ネタは云わない事。

クラブで遊んだ金額を喋らない事。(ホステスさんの同伴の時は決して云わない。)

後日、自慢げに云う人は話半分で聞いていますから・・・・・・。男を張るって疲れますネ。

しかしそういう人に集まる称賛は何物にも変えがたいものでしょう。どこへ行っても好感、好意のもてるお金持ちになって下さい。

さて次は貧乏人の登場である。

自分は貧乏人で他人も認めている根性入りの貧乏人諸君。私は君達が店に入って来るのが一番楽しい。クラブで遊ぶ金は無い。居酒屋かスナックで飲んで酔っている皆さん。決して恥とか淋しいとか思わない事。何故なら君達には大きな財産が有るではないか。

何か判りますか。“時間”です。人生の長い時間が有るのです。これはうらやましい。今金持ちの文章を書いたが彼らも同じ思いの方々が多いと思う。

先日も不精ヒゲをはやし、ジーパンはいた三人づれの客、気後れしては負けとばかりに精一杯背伸びしている。

“私に任せろ„三人の前に人相の悪いオーナーが近付くと勃起力半減。中折れ状態になっている。(失礼)

私は一言“歓迎します„と云うと“予算云ってもいいですか?一人1万円づつかき集めて来ました。„

“かき集めて来ました„この言葉に私の心のスイッチが入り、“最初はやさしい知っている酒より飲みなさい。適当に飲んだら後は私に任せてくれる?„嬉しそうでした。

“今から出す酒を飲んでごらん。„ボウモアバイセンテナリー・タリスカートラディショナル・グレンモーランジ1963 3本出すと、“こんなお金は払えません。„

“心配いらない私からのプレゼントだから・・・・・。この店は私の店だ。私が仕切っている。私がOKなら全てOKだから„この三人一人一杯づつかと思って“私はこれ、僕はこれ„さかんに頭をひねっていた。

“違う一人3種類全て飲んでいいよ。但し、敬意を払って飲みなさい。„この酒を造った人々は多くの人にこの酒を飲んで欲しいから造ったと思う。

酒の判らないお金持ちより君達の方がこの酒を飲むにふさわしいかもしれない。

そして将来年を取った時にこの酒を思い出すといいですよ。

しかし決して焦って金持ちになるんじゃないよ。

西洋のことわざに“若さと富は両立しない”という言葉があるがその聞に食べ方、飲み方のマナーだけは努力して身に付けておく事だよ。

そして人の人情には甘え、人には礼節を尽くしなさい。そうしたら誰かが救いの手を差し伸べてくれるから・・・・・・。

君達の持っている時間は大切なもの。10年分の生命力を1億で買えるものなら買う人は山程いる。それ位大切なものである。貧乏人を恥じる事などない。

最初はみんなそうだった。しかし、その後の努力である。人格を欠いた金持ちになるならそのまま貧乏人でいた方がいい。

何故なら人格を欠いた金持ちは背中に重荷を背負わされている。しかし誰も助けてくれない。それなら人が助けてくれる貧乏人の方が遥かに立派である。

“文章上貧乏人と云う言葉を使った非礼をお詫びします。”

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